ACECOMBATSISTER

shattered prinsess

エースコンバットシスター シャッタードプリンセス







ミッション3 北の目の破壊


「これは花穂でも応援できないよ・・・」

 丘から見下ろす浜辺は人で満たされていた。
 9月の鹿児島ならまだまだ十分泳ぐことは出来るけれど、無論海水浴に来ているわけではない。
 これが海水浴だったらいいのに・・・
 買ったまま死蔵されている水着を思って花穂はため息をついた。
 東日本軍の包囲を受け、今まさに殲滅されようとしている20万のもの将兵が犇く志布志湾は夏の湘南など比較にならないくらいの人口密度である。
 人ごみが苦手というわけではないが、それでも快適とはおよそ言いがたい環境だった。
  
「中尉殿、斥候が戻りました」

 大隊の先任下士官である軍曹が耳打ちした。
 上級者の戦死に次ぐ、戦死で遂には歩兵大隊の指揮は中尉である花穂までに回ってきていた。そして花穂の下はもう少尉しかいないという有様である。
 もっとも、すり減らされた大隊の戦力は中隊レベルでしかないので、指揮に関しては特に問題なかった。
 問題があるとするならば、中隊規模でしかない歩兵大隊に、大隊に要求される任務が申し付けられているという一点にあると言える。
 海岸から撤退する友軍の背中を守るため、花穂の大隊は長々とした防衛線を構築、殿軍を引き受けていた。
 もっとも、その野戦陣地は教本にある規定の3倍以上の範囲にわたっていて、もはや軍事的には無意味としか言いようの無い代物ではあった。
 だが、ここを突破されれば、もはや後はない。
 
「戦車の轍を大量に発見したそうです。おそらく大隊規模と思われます」

「そう・・・困ったね」

 東日本軍のT80、T72はソ連の純正品よりも性能が高い。
 複合装甲を備え、HEATに対して高い耐久力を発揮する爆発反応装甲で全身を包んだ東日本製のT80、T72を独力で撃破するのは至難の業だ。
 だが、困ったと呟く花穂の表情には深刻なソレは全くなかった。
 報告する軍曹にすらない。
 薄々、自分達の前面に何が現れようとしているか勘付いていた大隊の兵士達にも悲壮感の類は全く浮かんでいなかった。
 上級司令部は何の理由もなしに花穂の大隊を困難という言葉ではとても表現しきれない任務につけたわけではなかったのである。
 戦争という非日常において、時折現れるある種の天才がどれだけのことを成し得るか、1950年に勃発した日本戦争に従軍したことがある師団長は知悉していた。
 
「がんばるしかないよ」

 せっかく買った水着を無駄にしないためにも。
 こんな綺麗な浜辺は厳つい野戦服じゃなくて、可愛い水着を着て大好きな人と歩きたい。
 花穂は自分が生き残ることについて、さほど疑問を持っていなかった。









「コンタクト、方位20度。ボギーが5機デス!」

「オーケー、スカイクローバー。メビウス1、エンゲージ」

 スロットルを押し込む、アフターバーナー・オン。接近する敵機と正対する。
 といっても、敵機は200キロ先にいる。ミサイルの射程距離外。

「頼むわよ」

 もうすっかり慣れた操縦桿のグリップを握りなおす。
 機体は加速して、直に音速を突破する。
 ジェネラルエレクトリック社製J79−GE−17Aターボジェットエンジンは今日も重いエンジン音で鼓膜を揺さぶる。
 機体の振動はまるで獲物を前にしたライオンの唸りのように、ずっしりと心強い。
 やがて敵機が翼下のスパロー中距離AAMの射程内に入る。

「メビウス1、フォックス1」

 友軍機も一斉にミサイルを放つ。
 火薬の力で機体から離れたスパロー中距離AAMはロケットモーターを点火、青い空に鮮やかな白煙を引いて敵機へ向かう。

「ボギーもミサイル発射デス!回避!」

 だが、咲耶を含めた戦闘機隊は僅かに編隊に間を持たせただけで回避はしない。
 回避したら最後、母機からの誘導で敵機を狙うセミアクティブホーミング式のスパローは誘導を失って明後日の方向へ飛んでいってしまう。
 例え何があろうとも敵機へのレーダー波照射を止めることはできない。
 それは敵機のMig23フロッガーも同じでR−23、西側ではAA−7アペックスと呼ばれる中距離AAMはセミアクティブホーミング式なので条件はF4ファントムと同じ。
 それはチキンレースのように、先に怖気づいたほうが負けだった。
 相対速度はマッハ4を軽く超える。
 40キロの距離など、一瞬に過ぎない。
 目を凝らして空を見張っても接近するミサイルは見えなかった。
 だが、喧しく神経を逆なでにする電子警告音がある限り、ロックは外れていない。
 頼みもしないのに、吹き出る汗が頬を伝う。
 悪態の一つでもつきたかったけれど、喉がカラカラでとても無理だった。
 ただ、短く一言

「意地っ張り!」

「人のことは言えないよ」

 ハリセンで叩きたい衝動を堪えて、操縦桿を固定し続ける。
 死に向かって突き進むチキンレース。
 先に耐えられなくなったのは東日本軍だった。
 コックピットに鳴り響いていた警報が途切れ、ロックオンの長音だけが残る。
 
「いける!」
 
 散開して回避運動に入ったMig23を追って、F4ファントムも散開。敵機を追い続ける。
 母機からの誘導を失ったR−23は虚しく南国の空へ消えた。
 やがて、Mig23が引いた飛行機雲は黒煙と炎に変わる。
 レーダースクリーンから3つのブリップが消え、残った2つは全滅を免れるために真っ直ぐに逃走へ入る。

「スプラッシュ・ダウン・バンデット!」

 荒い息を整えながら、宣言する。
 珠のように浮かんだ額の汗を拭う、BVR戦闘は相手が見えない分疲れる。不確かさと不安定さが頭にこびり付いて離れない。そういう部分がまだ新米である証拠なのだろうけれど、こればかりは慣れそうにもない。
 BVR(視界外)戦闘は電子技術がストレートに反映されるので一般的には西日本軍が有利だった。
 西側が誇る最新の電子技術の塊であるAWACS、E−767セントリーによる長距離索敵が使える西日本軍と貧弱なソ連製地上レーダーサイトに頼らなければならない東日本軍、中距離ミサイルの打ち合いでは多くの場合西日本軍に軍配が上がる。
 先に敵機を発見できる西日本軍が常に先手をとってミサイルを発射できるので、正面からの撃ち合いになれば少しだけ早くミサイルは東日本軍に殺到することになるのである。この為にMig23のパイロットはギリギリでミサイルの誘導を放棄しなければならなかった。
 決して東日本軍のパイロットの勇気が不足しているわけではなかった。

「方位180度、距離120キロ。ボギーが4機、低空を高速接近中デス!」

 休む暇もなく機首を翻す。
 志布志湾へ追い詰められた20万の国防陸軍残存戦力を沖縄へ撤退させる救出作戦ダイナモが発動され、西日本空軍は持てる戦力を全て投入して航空支援にあたっていた。
 具体的には局所的な制空権の確保、その為にまずは相手のレーダー網を虱潰しにしなければならない。WW2におけるバトル・オブ・ブリテンで英国に勝利を齎したのはレーダー網であり、その情報をつかって戦闘機を誘導する通信指揮システムだった。
 現代ではさらに洗練されて各地のレーダーサイト、AWACS、戦闘機、SAM、陸軍、海軍の全てオンラインで繋げてしまう統合的な戦闘指揮システムにまで進歩している。
制空権奪取のためにも東日本軍のレーダー網の破壊が急務であり、情報部の活躍もあって九州南部の国見山地に東日本軍の移動式レーダーサイトを発見した西日本軍はこれを破壊、東日本軍の防空態勢を弱体化させる作戦を計画した。
 今回の任務は別働の攻撃隊が安全にレーダーサイトを破壊できるように、可能な限り派手に暴れて敵の戦闘機を引きつけることだった。
 まあ、細かい背景はともかく。
 重い爆弾を積まない身軽な機体で思う存分戦えるのは気持ちいい。
 爆装しているのとしていないのとでは、機体の反応が全く違う。
 それに、やっぱり戦闘機パイロットになったからには技巧の限りを尽くして敵機を撃墜するドッグファイトをやりたい。
 それにしても接近してくる敵機はなんだろうか?Mig23だろうか、それともMig21か、どちらにせよBVRで撃破してしまうので大して変わらないが。

「速いデス・・・レーダーを切ってる?でも追ってくるデス・・・どうして?」

「どうしたの?スカイクローバーはっきりして」

 ちょっと声が荒くなる。
 なんだか嫌な予感がした。

「この反応と速度は・・・気をつけて!Mig29デス!」

「ジーザス!」

 思わず天を仰ぎたくなるが、大G下で天を見上げるのは自殺行為だった。首の骨が折れてしまう。
 今まで沈黙していたレーダー警戒受信機が一斉に電子音の合唱を再開した。ロックオンされている。敵機はレーダーを切って接近してきていたのだ。

「ボギー、ミサイル発射デス!みんな、逃げて!」

 言われなくても既に全機が雲の子を散らすようにして回避機動に入っていた。
 Mig29に搭載されている中距離AAM、R−27T。西側呼称AA−10アラモはスパローよりも射程が長い。そして速い。
 地上のレーダーサイトの誘導受けながら、IRST(赤外線探知)も併用して一切の電波を放射することなく接近してきたMig29は中距離ミサイルの射程距離圏内に入ると同時にレーダーを作動、ミサイルを発射した。
 もしもAWACSが無ければ、この攻撃は完全な奇襲となって咲耶達の小隊はミサイル命中までその存在に気付かなかったに違いなかった。
 だが気付いていれば回避できる。

「来たよミサイル2発!振り切って!」

「分ってる。いくわよ!」

 白煙を上げて、特徴的な蝶の羽のようなフィンで風を切って迫りR−27Rを睨みつけながら操縦桿を押し倒して右旋回に入る。
 Gメーターは5、6と急上昇して7Gにまで達した。

「チャフ!」

 衛ちゃんが絶妙なタイミングでチャフを打ち出す。
 さまざまなレーダーの波長に引っかかるように裁断された不ぞろいなアルミコーティングのカーボングラスファイバーが電子の雲を作り上げる。
 2発のR−27Rはまともにチャフ雲に突っ込んで、東日本が誇る高度な電子技術で作られたアクティブレーダー式の近接信管を作動させた。ミサイル、爆発。
 急旋回で速度の落ちたF4ファントムに衝撃波が追いつき、機体を揺さぶる。だが飛行には問題ない。破片一つ、掠ってない。
 
「メビウス1、チェキ6!」

 背後を振り返る。
 青い空に薄く細い飛行機雲、そしてMig29特有の黒いエンジン排気。流線型の流れるような洗練された機体。
 ソ連製戦闘機最高の格闘戦性能を誇るMig29を視界の中に捉える。
 ぞっとする静けさがファントムのコックピットを支配した。
 視界の中にいるMig29ほど恐ろしいものはない。
 ミサイル偏重主義の時代に設計されたF4ファントムの格闘戦能力はお世辞にも高いとは言いがたい。同世代ならともかく、F15、F14、F18を格闘戦で撃墜するために設計されたMig29にはドッグファイトでは絶対に勝てない。
 Mig29の滑らかな機体から火薬カートリッジに力でミサイルが切り離される。
 ミサイル2発、R−73。西側ではA−11アーチャーと呼ばれる最新鋭短距離AAM。
 西側の戦闘機には今だ装備されていないMig29のHMDと組み合わせることで広角での攻撃が可能な新世代の格闘戦用ミサイル。格闘戦でF15を初めとする西側の主力戦闘機を圧倒すべく開発されたMig29最強の武器。
 これに比べるのならば、先に発射したAA−10アラモなど懐に飛び込むまでの時間稼ぎ程度の意味しかない。
 ラデンロケットノズルを用いた推力偏向翼を装備することで最大12.5Gという脅威の機動性を誇る。
 90年代において完全に西側を凌駕したソ連AAM技術の結晶であり、米国の10先をいく性能を持つ魔弾。そのシーカーがF4EJ改のエンジン排気を捉えていた。
 
「ミサイル2発、避けて!」

 背後を見張る衛ちゃんが悲鳴を上げる。
 その悲鳴のお蔭で私は悲鳴を上げずに済んだ。
 スロットルを押し込んで、アフターバーナーを点火、そのまま反転降下して速度を稼ぐ、同時にフレア放出。操縦桿を引き起こす。Gメーターは7を越えて、瞬間的に9を超える。
 視界が急速に狭まり、空の青さを闇が侵食していく。
 ブラックアウトしてるな、と自覚。
 Gスーツが痛いほど体を締め付けるけど、無意味。瞳に残った空の青は闇に塗りつぶされて何も見えない。
 それでも体に染み込んだACM技術は勝手に体を動かしていく。
 フレアに騙されて爆発したアーチャーの衝撃波を遠くに感じながら、操縦桿を右に倒してロール。体にかかるGが減っていって、Gスーツの締め付けも解れていく。気分は縄を解かれたポンレンス・ハム。
 そこでようやく視界が戻る。
 バックミラーの中には気絶してあらぬ方向に首を曲げている衛ちゃん

「衛ちゃん!おきて!」

「うう、首が痛いよぉ」

 どこか視線が泳いだまま衛ちゃんは言う。
 実際、私もいい具合に脳ミソがシェイクされている。

「大丈夫!死ねば痛くないわ!」

「死にたくないよぉ」

「じゃあ、しっかり見張ってて」

 攻撃をかわされたMig29はその高い機動性を見せ付けるようにして旋回、降下。まだ背後についていた。
 焦燥で神経が焼ける。
 焦るな、落ち着け、と言い聞かせても早鐘のように鳴る心臓は落ち着いてくれない。
 あのMig29相手にドッグファイトは絶対に勝ち目が無い、どう考えても格闘戦は無理無茶無謀。数度の旋回で確実に後ろを取られる。
 何か自分にとって都合のいい情報が無いか、これほどまでに知恵を絞るのは生まれて初めてかもしれない。
 幸い、それは直に見つかった。

「よーっし、ついてきなさいよ!」

 操縦桿を右に倒しつつ、スライス(降下旋回)
 機体が左へ僅かに沈む、アドバース・ヨー。右ラダーで打ち消す。降下で速度を稼ぎながら旋回を続ける。
 Gで体が軋むが、耐えられなくもない。
 レーダー受信警戒機が警報を鳴らすが、それでいい。
 さらに降下しつつ、旋回を繰り返す。
 加速的に減っていく高度とじりじりと上がっていく速度。Gメーターの針が4から7、そして時折9の間をふらふらと彷徨う。
 何度目かのスライス。
 ようやく目的の場所までくることが出来た。後ろにはMig29、しっかりとついて来ている。だけど、それでいい。
 スライスで逃げるF4EJ改を追ってMig29も右旋回。
 流石に旋回半径は小さい。
 だけど、少し注意が留守になってはいないかしら?

「今よ!」

「亞里亞・・・いきます」

 旋回中のMig29の機尾をすり抜けて、一機の戦闘機が駆け抜けていく。
 機体を五月の空みたいな水色に塗っていて、見る間に空に溶け込んでしまう。
 無尾翼デルタ、西日本にも東日本にもそんな戦闘機はいない。あるとすれば、それはフランスから遥々海を越えてやってきたフランス義勇航空軍しかない。
 ミラージュ2000、F−16に匹敵するフランスが生み出した傑作軽戦闘機。
 旋回中は完全に死角になるベリーサイド(真横)から、すり抜けざまに放たれた30ミリ機関砲弾は滑らかなファルクラムの機体に大穴を空ける。
 次いで爆発、レーダー警戒受信機の警報が叩き切られたように途切れる。
 大Gに耐えるために強固な構造を持つMig29でも、ミラージュ2000のDEFA30ミリ機関砲の炸裂弾には耐えられない。
 
「マイクアルファ・・・キル」

「お見事!助かったわ」

 一度離れたミラージュ2000が戻ってくる。
 見るからに軽快で、水色の塗装が綺麗な戦闘機だった。
 手を振ると、控えめに手をあげてミラージュのパイロットも応じる。
 
「ええっと、私はメビウス1。あなたは何ていうの?」

「亞里亞は・・・〜〜〜〜なの」

 駄目だ、無線の雑音でさっぱり聞き取れない。ちょっと声が小さすぎる。
 
「ごめん、もっと大きな声ではっきり言ってもらえないかな?」

「亞里亞は・・・くすん・・・いじわるしないで・・」

 Mig29に追い詰められた時とは別の意味で冷や汗が吹き出る。
 ちょっと待って・・・なんで泣くの!?

「ほら、戦闘中に泣かないで、もうコールサインはいいから・・・」

「・・・くすん・・・ほんとうに?」

「ほんと、ほんと」

 何やってるんだろ?わたし・・・
 なんだかとても馬鹿みたいだ。

「あ〜咲耶姉チャマが泣かした〜」

 四葉ちゃんが割り込んでくる。

「ちょっと、誤解よ!人聞きの悪いこと言わないで!」

「ふ〜ん、基地に帰ったら、どうやって泣かしたかチェキするデス」

「怒るわよ!」

 と、脅しても遥か300キロ先のAWACSにいては効果が無い。
 このハリセンの間合いにいれば簡単にケリがつくのだけれど。

「別働隊はレーダーサイトの破壊に成功デス!またまた勝っちゃいました!」

「覚えてなさいよ、四葉ちゃん」

「何のことだか分らないデス〜!」

 見れば東日本軍機は撤退に入っていた。
 とりあえず、危なかったとはいえ勝ったらしい。

「まったく、東日本の戦闘機は化け物かしら」

「もうちょっと新しい戦闘機が欲しいね」

 衛ちゃんの言葉に軽く頷く、F4ファントムでMig29やSu−27と戦ったら何がどうなるのかは・・・もう火を見ている。性能差が明らか過ぎた。

「さあ、お家に帰るデス!」

 操縦桿を倒し、翼を翻す。
 ずっしりと体が重い。大G旋回が多かったせいか体が軋む。

「亞里亞ちゃんも行こう」

「・・・分ったの〜」

 するすると、ミラージュと50メートル離れていない編隊飛行隊形を組む。全くブレがない。今まで一度も編隊を組んだことのないというのに、まるで躊躇もない。
 おとなしい子だけど、腕前は確かなものがある。
 
「眠り狂四郎みたいな子ね・・・」

「何か言った?さくねぇ」

「ううん、なんでもない」

 慌てて打ち消して、誤魔化しに視線を逸らす。
 高度8000メートルから見下ろすと志布志湾を一望できた。
 ここからでは巨大な輸送船すら針の先ほどもない。
 
「・・・・沖縄で会いましょう」

 届かないと知りつつも、言葉を止められなかった。
 いくらか防空網に穴を開けたからといって、彼らの全てが沖縄に脱出できるとは限らない。いや、それはむしろありえない。今も秒単位、分単位で兵士は死んでいく。
 でも、それは私にはどうしようもない。
 私は、私に出来ることにベストを尽くそうと思う。








 日記 2000年9月25日

 亞里亞ちゃんと意気投合する。
 フランス人形みたいで、思わず抱きしめたくなってしまう。
 「ちょっとだけなら・・・いいの」
 なんて言ってくれるのだから、可愛すぎてなんでパイロットなんかになったのか、さっぱり分らない。
 じっとしていても、いくらでも白馬に乗ったナイトは向こうからやってきてくれそうなのに・・・もったいないと思う。
 救出作戦は東日本の防空網が綻んだことから、順調らしい。沖縄には九州から脱出してきた兵隊であふれていて、交通渋滞が酷くなった。
 まだまだ戦争は終わりそうにない。
 




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