プロローグ 謀議
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CENTER:&size(19){プロローグ 謀議};
''1945年12月30日、日曜日''
''ホワイトハウス 大統領執務室''
合衆国大統領を務めるハリー・S・トルーマンは、国の長と...
それからおもむろに立ち上がると、陽光で薄黄色くなってい...
「連合国の一角を担う、ソビエト連邦の崩壊か……」
目に映る平和な光景とは裏腹に、トルーマンは緊張の静寂を...
頭を悩ます新聞記事と、補佐官や将軍からの痛々しい報告と...
ソビエト連邦だけでなく、下手すれば明日は我が身という可...
南太平洋、北太平洋、そして現在は中部太平洋の島々までも...
米軍初期反抗作戦の足掛かりとなったエニウェトク環礁も、...
少なくとも、米海軍が攻勢に出られるような余裕はほとんど...
沖縄戦とオーストラリア近海の戦いで大量の死傷者を出して...
それにトルーマンは、第1次世界大戦で陸軍砲兵隊として参戦...
ルーズベルト大統領があれだけ贔屓にしていた海軍だという...
一年間に護衛空母を120隻建造?
エセックス級空母を年間10隻?
航空機を10万機?
……まったくバカバカしくて、話し合う余地すら感じられない。
たとえいくら空母や航空機を作ろうとも、あの最悪にいまい...
レーダーに機影が映ったかと思えば、すでに甲板上を火の海...
それでいて、せめてロケット弾やジェット戦闘機の対処法で...
……目撃証言が少なすぎて、しかもロケット弾は一瞬しか見え...
トルーマンは猛烈な苛立たしさを覚え、椅子に座って読もう...
それこそ、お前たちの目はビー玉以下なのかと罵倒してやり...
科学技術の進化はどこの世界も日進月歩なはずだ。
確かに日本軍は、無雷跡に近い酸素魚雷を密かに作ったり、...
しかしだからといって、常人には考えつかないような奇想天...
VT信管もレーダーもバズーカ砲も、我が合衆国は世界最高...
それなのにどうして、日本軍のような空対空、空対地、空対...
ドイツ軍のジェット戦闘機を参考にしたこの状態でも、日本...
軍や技術者など一部の者からは、いまの日本はきっと未来か...
もう、いいかげんに泣き言を聞くのはうんざりだ。
ちまたでは祖国存亡の危機とまでささやかれつつあるこの国...
たとえ相手が未来の日本だろうが、悪魔と契約した日本だろ...
その場に立ち止まって嘆いている暇があるのなら、さっさと...
まったくもって、先代の大統領は凄まじく厄介な仕事を残し...
――やはり、副大統領候補を薦められたときに、無理にでも断...
トルーマンはまた椅子に座って腕を組みながら思った。
フランクリン・D・ルーズベルト大統領が、歴代合衆国大統...
ルーズベルトに次ぐ民主党の大物政治家は、ヘンリー・ウォ...
前者は進歩派、後者は保守派を代表しており、どちらをとっ...
ルーズベルトは民主党の票が大統領選挙で割れることを恐れ...
そう考えてみれば、人生の岐路もあそこだったのかもしれな...
副大統領候補に推されたときは一度断ったが、ルーズベルト...
だから、副大統領になってからも政策決定には参加していな...
たかが州の田舎の判事あがりが、国策などという重要な場面...
「それなのに――副大統領になって、わずか3ヵ月で大統領だ。神...
合衆国大統領であるルーズベルトは、1945年の4月12日に脳溢...
まるで、沖縄戦の大敗北があまりにも衝撃的過ぎて容態が悪...
ジョージア州、ウォーム・スプリングスの別荘で彼の最期を...
沖縄戦で米海軍が壊滅的な打撃を受け、歴史上もっとも偉大...
一刻も早い、新しい指導者が必要だったのだ。
合衆国の法律では、現職の大統領が死ぬと、副大統領がその...
ルーズベルト一族のセオドア・ルーズベルトも、マッキンレ...
先の理由がある通り、ハリー・S・トルーマンが副大統領に...
しかしトルーマンが副大統領である以上、彼は合衆国民とし...
大統領に就任した最初の閣議で、スチムソン陸軍長官から原...
原爆の開発、製造についてはそれまで何も知らなかったし、...
しかし原爆の使用について、トルーマンはただちに決断しな...
なぜなら合衆国の大統領は、全ての重大な案件に最終的な決...
「くそっ……フォレスタルもスチムソンも、なんでもわたしに決...
またそのような重大決定をさせておきながら、あの無様な体...
むざむざと米本土奥深くへの日本機侵入を許し、ロスアラモ...
莫大な費用と時間と人材を費やしていたマンハッタン計画は...
当然、その辺りの警備に当たっていた基地の将校どもは全員...
そしてさらに問題なのが――吐き気がしたくなるほど堕ちた海...
「あいつらは、簡単な人員輸送さえもできんのかっ!」
船体が流氷にぶつかって沈没したらしく、搬送していたドイ...
起死回生を狙ったオーストラリア近海での戦いも、戦艦3隻と...
とはいえこれも、日本軍の傘下に落ちた枢軸国に流れている...
そしてそんな米国の苦悩をあざ笑うかのように、日本軍はさ...
米軍は戦力の温存を決めたため、本土決戦を主張したカーテ...
大拠点であるオーストラリアを失うことは、太平洋の戦力上...
口惜しいことではあるが、リメンバー・パールハーバーなら...
「しかし、いつになったら、わがアメリカ合衆国は反撃に転じ...
そのときドアが勢いよく開いて、奇麗な礼装に身を包んだ将...
付き添うように後ろから入ってきたもう一人の将官が、陰鬱...
「大統領、いまその廊下を歩いていたとき、職員の間で流行っ...
「……デマ? なんだそれは?」
一応は敬うような姿勢を見せているものの、慇懃無礼にも見...
こけおどしでハッタリ屋のマッカーサーといい、潜水艦乗り...
トルーマンの不機嫌さなど意に介さないように、前頭葉の毛...
「共産帝国のソ連が降伏したことで、民主主義国家のアメリカ...
それを聞き、トルーマンは怪訝な表情になった。
「民主主義国家だと? あの大日本帝国がか?……ただの独裁軍...
「しかし実際問題として、日本を民主主義国家と勘違いしてい...
「マスコミの前で演説か……」
今度はどのような戦況報告を国民にすればよいのだろうか。
アリューシャン方面に進出していたアッツ・キスカ島を奪還...
それとも、とうとう降伏したソ連軍をほとんど支援しなかっ...
大統領になってからというもの、一度としていい気分でマス...
「それで――ハップ・アーノルド、今日はそれだけのために来た...
「ええ、今日は弱気になりつつある大統領を少し元気づけよう...
疲れた様子を見せるトルーマン大統領の質問に、陸軍航空隊...
統合参謀長幕僚会議のメンバーであり、新型機であるB-29爆...
1944年11月に元帥の階級を創設する法案が上院を通ってから...
彼以外に陸軍で元帥枠に入った人物は、マーシャル、マッカ...
「ふん……合衆国大統領であるわたしを激励に、か。おおかた、B...
まったく、1000機もの重爆撃機を数日で失いおって……あれ1機...
不機嫌な状態から戻っていないトルーマンが皮肉っぽく言う...
「大統領、マリアナ基地に展開していたB-29部隊は確かに全滅...
「なるほど、それはわたしも認めよう。B-29爆撃機が、電池の...
そう言って、トルーマンは乱雑に積み上げられていたバイン...
開かれたページには何枚もの白黒写真が貼り付けられている。
「この写真――日付は今年のエープリル初旬だが、偵察用のB-29...
「そうですね、これらはマーチ大攻勢爆撃によって受けた空襲...
第20航空軍司令官のアーノルド大将は涼しげにあいづちを打...
マーチ大攻勢爆撃とは、1945年3月9日の東京大空襲からおよ...
マリアナ基地に展開するB-29部隊は、東京の次は12日に名古...
このわずか十日間で、日本本土にはのべ1595機のB-29が襲来...
これは、マリアナ基地から過去3ヶ月半の間に出撃した総機数...
「そして、この十日間の空襲により55万万戸以上が焼き払われ...
「そうです。それに引き換え、B-29の損害はわずか22機。出撃...
ふんと鼻を不快気に鳴らして、ずれつつあった眼鏡を右手の...
「それで――わたしが知りたいのは、どうしてここまで主要都市...
「それは……十日間の空襲でマリアナ基地の焼夷弾をすべて使い...
アーノルド大将が返答に窮していると、彼の後ろに控えてい...
それに気づいたアーノルド大将は、トルーマンの視線から逃...
発言を認めたというようにトルーマンが視線を向けると、ア...
「大統領、わたしの考えでは、たとえ日本の大都市を叩いたと...
「ほう、なかなか興味深いことを言ってくれる。よければその...
将官の話すしわがれた声が聞こえにくいため、トルーマンは...
「はい、大統領。日本の軍需工場とは、広島や京都などという...
「……きみのその理論だと、日本全土を焼き払わなくては、日本...
顔を正対に戻して、トルーマンはマリアナ基地B-29部隊司令...
訊かれたルメイは、ずんぐりとした体躯を微塵も揺るがせず...
「大統領、なにをおっしゃっているのかよくわからないのです...
「しかしその過程において、多くの民間人が爆撃に巻き込まれ...
これ以外にコーデル・ハル国務長官も、日本軍による中国各...
1944年2月13日の英米空軍による文化と歴史の町ドレスデン大...
それに、もしも無差別爆撃のことが合衆国内で話題にでもな...
議会で政敵である共和党から攻撃される危険性だってある。
すると、横に退いていたアーノルド大将が、ルメイをどけて...
「大統領、わたしも対外的には、『わが航空団は、軍事目標へ...
アーノルド大将は机の上に両手を置いて語った。
「しかし、大統領の前ですから胸の内を言いますが――戦争とは...
手加減する必要はまったくありません。またそうでなくとも...
返答に詰まるトルーマンの隙を突くように、ルメイも賛同の...
「そもそも残虐さとは、わたしたち本来の人間性ではなく、戦...
終戦して何十年も経てば、今次大戦も徐々に美化されていく...
「――そう、きみたちの言うとおり、政治家には建前と奇麗事が...
政治の世界を詳しく知らない軍人に好き勝手言われるのも辛...
「しかしあいにくと、わたしは複雑な性格の前大統領と違い、...
トルーマンは人に関する好き嫌いもはっきりと言うタイプだ。
だからこそ、「好人物ではあるが政治家や外交家にはむかな...
「したがって、ふと思っていたことを率直に質問したいのだが」
腕を口元で組み、ジャクソン郡裁判所の裁判長を10年間務め...
「アーノルド大将もルメイ少将も、ソ連のイルクーツクで戦死...
2人の無表情な眼がかすかに揺れ動いたのを、トルーマンは見...
「大統領、アルテミス少将とこれまでの話にどのような関係が―...
「いいから、覚えているのか覚えていないのか、早く答えたま...
話を逸らそうとしたルメイを押さえ込み、トルーマンは淡々...
そしてこれ見よがしに、さきほど読んでいた新聞に載ってい...
「アーノルド大将、きみもそう思っているのだろう? なにせ...
それによくよく思い出してみれば、合衆国に航空機や兵隊を...
「……はい。神聖日本軍と戦って生き残れた者が少なかったため...
そのような彼が日本軍による拷問の末、なぶり殺されたこと...
四角いレンズを通した向こうにあるトルーマンの目が、きら...
「そう、わたしもきみの意見には大いに賛同する。かれと話し...
トルーマンはそこで一息つき、不意打ちするように、そっと...
「まったくもってそう思う――米陸軍航空隊による枢軸国への無...
アーノルド大将からわざとらしい悲しみの表情が消え、一方...
トルーマンはそれほど権謀術数に長けているわけではないが...
「大統領……それは、どういった意味でしょうか?」
「ん? なにか問題にするような発言でもあったかね?」
そ知らぬ顔で訊くと、アーノルド大将は弱々しい呻き声を上...
トルーマンは、内心でほくそ笑みながら無表情を装って言う。
「しかし、フィル・アルテミス少将が死んだことは、必ずしも...
日本軍もモスクワで大空襲を執行したらしいし、国内で無差...
「B-29を製造するボーイング社や――最近になって、こんどはノ...
トルーマンが語り続けている間、アーノルド大将とルメイは...
まるで、なにかの拍子で失言してしまうことを恐れるかのよ...
「そういえば、DS社の若き幹部であるブレント・フォーロン...
「ええ……まあ、それよりも大統領、この間から議論している件...
アーノルド大将が萎れたような口調で話を逸らす様を見て、...
これでなんとか、彼ら軍人を前にして、合衆国大統領として...
顔にしわを寄せたアーノルド大将とルメイの表情の裏には、...
「この間から議論しているのというと――空軍の独立化と、三軍...
この他にも、国家安全保障法の制定や、総合的な情報収集を...
これらの多くは、陸軍が常に主張してきたことがらだった。
「イエス、大統領。われわれ陸軍航空隊としても、いまの組織...
「海軍か……あれは前大統領の悪癖によって自惚れてしまってい...
おかげで、陸軍将兵の多くも無駄死にしてしまった。まった...
そのときのいまいましい体験を思い出したトルーマンは、体...
海軍次官を8年間務めたルーズベルト大統領の海軍びいきは有...
というより、ルーズベルトの海軍行政への知悉ちしつぶりは...
お気に入りだけを枢要ポストにつけるやり方など、もはや宮...
とはいえ海軍長官と陸軍長官に、あえて政敵である共和党の...
「前大統領ならば、わざわざこのような組織体制を作り上げな...
それを聞き、アーノルド大将は喜色満面という表情になる。
「ありがとうございます。われわれ陸軍も、影ながら大統領を...
作戦部長と合衆国艦隊司令長官を兼ねているアーネスト・J...
そういえば、キングもルーズベルトにその力量を買われた奴...
戦略家としては素晴らしい才能と実行力を持っているのかも...
もう歳も65を越えるし、戦争が終わればすぐにでも退役する...
「キングはコチコチの職業軍人で、古色蒼然の甲殻類みたいな...
「ハワイですか……日本海軍は、早ければ来年の春を待たずして...
いままで黙っていたルメイの呟きに、トルーマンは白目を向...
「これ以上、婉曲的かつ抽象的に言うのは止めたまえ、ルメイ...
大統領の詰問に、アーノルド大将は肩をすくめ、薄く笑うだ...
「大統領、たとえ海軍が腰抜けばかりになったとしても、たと...
陸軍航空隊司令官の決意を聞き、トルーマンは礼装を着てい...
軍人とは、本当に難儀な職だなと思う。税金で国が雇ってい...
だからといって、軍がむき出しになってしまえばそれも危険...
その国が抱えた軍事力は、つねに良識ある政治のコントロー...
と同時に、言論人の責任は極めて重大であるのだが――しかし...
戦線も外交も順調に推移しているのなら問題は少なかったろ...
おそらく国民も、遅かれ早かれそれに気づくことだろう。
トルーマンは堅い表情で言った。
「たしかに、きみの言うとおりだ、ハップ・アーノルド。だか...
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''1945年12月30日、日曜日''
''ホワイトハウス 大統領執務室''
合衆国大統領を務めるハリー・S・トルーマンは、国の長と...
それからおもむろに立ち上がると、陽光で薄黄色くなってい...
「連合国の一角を担う、ソビエト連邦の崩壊か……」
目に映る平和な光景とは裏腹に、トルーマンは緊張の静寂を...
頭を悩ます新聞記事と、補佐官や将軍からの痛々しい報告と...
ソビエト連邦だけでなく、下手すれば明日は我が身という可...
南太平洋、北太平洋、そして現在は中部太平洋の島々までも...
米軍初期反抗作戦の足掛かりとなったエニウェトク環礁も、...
少なくとも、米海軍が攻勢に出られるような余裕はほとんど...
沖縄戦とオーストラリア近海の戦いで大量の死傷者を出して...
それにトルーマンは、第1次世界大戦で陸軍砲兵隊として参戦...
ルーズベルト大統領があれだけ贔屓にしていた海軍だという...
一年間に護衛空母を120隻建造?
エセックス級空母を年間10隻?
航空機を10万機?
……まったくバカバカしくて、話し合う余地すら感じられない。
たとえいくら空母や航空機を作ろうとも、あの最悪にいまい...
レーダーに機影が映ったかと思えば、すでに甲板上を火の海...
それでいて、せめてロケット弾やジェット戦闘機の対処法で...
……目撃証言が少なすぎて、しかもロケット弾は一瞬しか見え...
トルーマンは猛烈な苛立たしさを覚え、椅子に座って読もう...
それこそ、お前たちの目はビー玉以下なのかと罵倒してやり...
科学技術の進化はどこの世界も日進月歩なはずだ。
確かに日本軍は、無雷跡に近い酸素魚雷を密かに作ったり、...
しかしだからといって、常人には考えつかないような奇想天...
VT信管もレーダーもバズーカ砲も、我が合衆国は世界最高...
それなのにどうして、日本軍のような空対空、空対地、空対...
ドイツ軍のジェット戦闘機を参考にしたこの状態でも、日本...
軍や技術者など一部の者からは、いまの日本はきっと未来か...
もう、いいかげんに泣き言を聞くのはうんざりだ。
ちまたでは祖国存亡の危機とまでささやかれつつあるこの国...
たとえ相手が未来の日本だろうが、悪魔と契約した日本だろ...
その場に立ち止まって嘆いている暇があるのなら、さっさと...
まったくもって、先代の大統領は凄まじく厄介な仕事を残し...
――やはり、副大統領候補を薦められたときに、無理にでも断...
トルーマンはまた椅子に座って腕を組みながら思った。
フランクリン・D・ルーズベルト大統領が、歴代合衆国大統...
ルーズベルトに次ぐ民主党の大物政治家は、ヘンリー・ウォ...
前者は進歩派、後者は保守派を代表しており、どちらをとっ...
ルーズベルトは民主党の票が大統領選挙で割れることを恐れ...
そう考えてみれば、人生の岐路もあそこだったのかもしれな...
副大統領候補に推されたときは一度断ったが、ルーズベルト...
だから、副大統領になってからも政策決定には参加していな...
たかが州の田舎の判事あがりが、国策などという重要な場面...
「それなのに――副大統領になって、わずか3ヵ月で大統領だ。神...
合衆国大統領であるルーズベルトは、1945年の4月12日に脳溢...
まるで、沖縄戦の大敗北があまりにも衝撃的過ぎて容態が悪...
ジョージア州、ウォーム・スプリングスの別荘で彼の最期を...
沖縄戦で米海軍が壊滅的な打撃を受け、歴史上もっとも偉大...
一刻も早い、新しい指導者が必要だったのだ。
合衆国の法律では、現職の大統領が死ぬと、副大統領がその...
ルーズベルト一族のセオドア・ルーズベルトも、マッキンレ...
先の理由がある通り、ハリー・S・トルーマンが副大統領に...
しかしトルーマンが副大統領である以上、彼は合衆国民とし...
大統領に就任した最初の閣議で、スチムソン陸軍長官から原...
原爆の開発、製造についてはそれまで何も知らなかったし、...
しかし原爆の使用について、トルーマンはただちに決断しな...
なぜなら合衆国の大統領は、全ての重大な案件に最終的な決...
「くそっ……フォレスタルもスチムソンも、なんでもわたしに決...
またそのような重大決定をさせておきながら、あの無様な体...
むざむざと米本土奥深くへの日本機侵入を許し、ロスアラモ...
莫大な費用と時間と人材を費やしていたマンハッタン計画は...
当然、その辺りの警備に当たっていた基地の将校どもは全員...
そしてさらに問題なのが――吐き気がしたくなるほど堕ちた海...
「あいつらは、簡単な人員輸送さえもできんのかっ!」
船体が流氷にぶつかって沈没したらしく、搬送していたドイ...
起死回生を狙ったオーストラリア近海での戦いも、戦艦3隻と...
とはいえこれも、日本軍の傘下に落ちた枢軸国に流れている...
そしてそんな米国の苦悩をあざ笑うかのように、日本軍はさ...
米軍は戦力の温存を決めたため、本土決戦を主張したカーテ...
大拠点であるオーストラリアを失うことは、太平洋の戦力上...
口惜しいことではあるが、リメンバー・パールハーバーなら...
「しかし、いつになったら、わがアメリカ合衆国は反撃に転じ...
そのときドアが勢いよく開いて、奇麗な礼装に身を包んだ将...
付き添うように後ろから入ってきたもう一人の将官が、陰鬱...
「大統領、いまその廊下を歩いていたとき、職員の間で流行っ...
「……デマ? なんだそれは?」
一応は敬うような姿勢を見せているものの、慇懃無礼にも見...
こけおどしでハッタリ屋のマッカーサーといい、潜水艦乗り...
トルーマンの不機嫌さなど意に介さないように、前頭葉の毛...
「共産帝国のソ連が降伏したことで、民主主義国家のアメリカ...
それを聞き、トルーマンは怪訝な表情になった。
「民主主義国家だと? あの大日本帝国がか?……ただの独裁軍...
「しかし実際問題として、日本を民主主義国家と勘違いしてい...
「マスコミの前で演説か……」
今度はどのような戦況報告を国民にすればよいのだろうか。
アリューシャン方面に進出していたアッツ・キスカ島を奪還...
それとも、とうとう降伏したソ連軍をほとんど支援しなかっ...
大統領になってからというもの、一度としていい気分でマス...
「それで――ハップ・アーノルド、今日はそれだけのために来た...
「ええ、今日は弱気になりつつある大統領を少し元気づけよう...
疲れた様子を見せるトルーマン大統領の質問に、陸軍航空隊...
統合参謀長幕僚会議のメンバーであり、新型機であるB-29爆...
1944年11月に元帥の階級を創設する法案が上院を通ってから...
彼以外に陸軍で元帥枠に入った人物は、マーシャル、マッカ...
「ふん……合衆国大統領であるわたしを激励に、か。おおかた、B...
まったく、1000機もの重爆撃機を数日で失いおって……あれ1機...
不機嫌な状態から戻っていないトルーマンが皮肉っぽく言う...
「大統領、マリアナ基地に展開していたB-29部隊は確かに全滅...
「なるほど、それはわたしも認めよう。B-29爆撃機が、電池の...
そう言って、トルーマンは乱雑に積み上げられていたバイン...
開かれたページには何枚もの白黒写真が貼り付けられている。
「この写真――日付は今年のエープリル初旬だが、偵察用のB-29...
「そうですね、これらはマーチ大攻勢爆撃によって受けた空襲...
第20航空軍司令官のアーノルド大将は涼しげにあいづちを打...
マーチ大攻勢爆撃とは、1945年3月9日の東京大空襲からおよ...
マリアナ基地に展開するB-29部隊は、東京の次は12日に名古...
このわずか十日間で、日本本土にはのべ1595機のB-29が襲来...
これは、マリアナ基地から過去3ヶ月半の間に出撃した総機数...
「そして、この十日間の空襲により55万万戸以上が焼き払われ...
「そうです。それに引き換え、B-29の損害はわずか22機。出撃...
ふんと鼻を不快気に鳴らして、ずれつつあった眼鏡を右手の...
「それで――わたしが知りたいのは、どうしてここまで主要都市...
「それは……十日間の空襲でマリアナ基地の焼夷弾をすべて使い...
アーノルド大将が返答に窮していると、彼の後ろに控えてい...
それに気づいたアーノルド大将は、トルーマンの視線から逃...
発言を認めたというようにトルーマンが視線を向けると、ア...
「大統領、わたしの考えでは、たとえ日本の大都市を叩いたと...
「ほう、なかなか興味深いことを言ってくれる。よければその...
将官の話すしわがれた声が聞こえにくいため、トルーマンは...
「はい、大統領。日本の軍需工場とは、広島や京都などという...
「……きみのその理論だと、日本全土を焼き払わなくては、日本...
顔を正対に戻して、トルーマンはマリアナ基地B-29部隊司令...
訊かれたルメイは、ずんぐりとした体躯を微塵も揺るがせず...
「大統領、なにをおっしゃっているのかよくわからないのです...
「しかしその過程において、多くの民間人が爆撃に巻き込まれ...
これ以外にコーデル・ハル国務長官も、日本軍による中国各...
1944年2月13日の英米空軍による文化と歴史の町ドレスデン大...
それに、もしも無差別爆撃のことが合衆国内で話題にでもな...
議会で政敵である共和党から攻撃される危険性だってある。
すると、横に退いていたアーノルド大将が、ルメイをどけて...
「大統領、わたしも対外的には、『わが航空団は、軍事目標へ...
アーノルド大将は机の上に両手を置いて語った。
「しかし、大統領の前ですから胸の内を言いますが――戦争とは...
手加減する必要はまったくありません。またそうでなくとも...
返答に詰まるトルーマンの隙を突くように、ルメイも賛同の...
「そもそも残虐さとは、わたしたち本来の人間性ではなく、戦...
終戦して何十年も経てば、今次大戦も徐々に美化されていく...
「――そう、きみたちの言うとおり、政治家には建前と奇麗事が...
政治の世界を詳しく知らない軍人に好き勝手言われるのも辛...
「しかしあいにくと、わたしは複雑な性格の前大統領と違い、...
トルーマンは人に関する好き嫌いもはっきりと言うタイプだ。
だからこそ、「好人物ではあるが政治家や外交家にはむかな...
「したがって、ふと思っていたことを率直に質問したいのだが」
腕を口元で組み、ジャクソン郡裁判所の裁判長を10年間務め...
「アーノルド大将もルメイ少将も、ソ連のイルクーツクで戦死...
2人の無表情な眼がかすかに揺れ動いたのを、トルーマンは見...
「大統領、アルテミス少将とこれまでの話にどのような関係が―...
「いいから、覚えているのか覚えていないのか、早く答えたま...
話を逸らそうとしたルメイを押さえ込み、トルーマンは淡々...
そしてこれ見よがしに、さきほど読んでいた新聞に載ってい...
「アーノルド大将、きみもそう思っているのだろう? なにせ...
それによくよく思い出してみれば、合衆国に航空機や兵隊を...
「……はい。神聖日本軍と戦って生き残れた者が少なかったため...
そのような彼が日本軍による拷問の末、なぶり殺されたこと...
四角いレンズを通した向こうにあるトルーマンの目が、きら...
「そう、わたしもきみの意見には大いに賛同する。かれと話し...
トルーマンはそこで一息つき、不意打ちするように、そっと...
「まったくもってそう思う――米陸軍航空隊による枢軸国への無...
アーノルド大将からわざとらしい悲しみの表情が消え、一方...
トルーマンはそれほど権謀術数に長けているわけではないが...
「大統領……それは、どういった意味でしょうか?」
「ん? なにか問題にするような発言でもあったかね?」
そ知らぬ顔で訊くと、アーノルド大将は弱々しい呻き声を上...
トルーマンは、内心でほくそ笑みながら無表情を装って言う。
「しかし、フィル・アルテミス少将が死んだことは、必ずしも...
日本軍もモスクワで大空襲を執行したらしいし、国内で無差...
「B-29を製造するボーイング社や――最近になって、こんどはノ...
トルーマンが語り続けている間、アーノルド大将とルメイは...
まるで、なにかの拍子で失言してしまうことを恐れるかのよ...
「そういえば、DS社の若き幹部であるブレント・フォーロン...
「ええ……まあ、それよりも大統領、この間から議論している件...
アーノルド大将が萎れたような口調で話を逸らす様を見て、...
これでなんとか、彼ら軍人を前にして、合衆国大統領として...
顔にしわを寄せたアーノルド大将とルメイの表情の裏には、...
「この間から議論しているのというと――空軍の独立化と、三軍...
この他にも、国家安全保障法の制定や、総合的な情報収集を...
これらの多くは、陸軍が常に主張してきたことがらだった。
「イエス、大統領。われわれ陸軍航空隊としても、いまの組織...
「海軍か……あれは前大統領の悪癖によって自惚れてしまってい...
おかげで、陸軍将兵の多くも無駄死にしてしまった。まった...
そのときのいまいましい体験を思い出したトルーマンは、体...
海軍次官を8年間務めたルーズベルト大統領の海軍びいきは有...
というより、ルーズベルトの海軍行政への知悉ちしつぶりは...
お気に入りだけを枢要ポストにつけるやり方など、もはや宮...
とはいえ海軍長官と陸軍長官に、あえて政敵である共和党の...
「前大統領ならば、わざわざこのような組織体制を作り上げな...
それを聞き、アーノルド大将は喜色満面という表情になる。
「ありがとうございます。われわれ陸軍も、影ながら大統領を...
作戦部長と合衆国艦隊司令長官を兼ねているアーネスト・J...
そういえば、キングもルーズベルトにその力量を買われた奴...
戦略家としては素晴らしい才能と実行力を持っているのかも...
もう歳も65を越えるし、戦争が終わればすぐにでも退役する...
「キングはコチコチの職業軍人で、古色蒼然の甲殻類みたいな...
「ハワイですか……日本海軍は、早ければ来年の春を待たずして...
いままで黙っていたルメイの呟きに、トルーマンは白目を向...
「これ以上、婉曲的かつ抽象的に言うのは止めたまえ、ルメイ...
大統領の詰問に、アーノルド大将は肩をすくめ、薄く笑うだ...
「大統領、たとえ海軍が腰抜けばかりになったとしても、たと...
陸軍航空隊司令官の決意を聞き、トルーマンは礼装を着てい...
軍人とは、本当に難儀な職だなと思う。税金で国が雇ってい...
だからといって、軍がむき出しになってしまえばそれも危険...
その国が抱えた軍事力は、つねに良識ある政治のコントロー...
と同時に、言論人の責任は極めて重大であるのだが――しかし...
戦線も外交も順調に推移しているのなら問題は少なかったろ...
おそらく国民も、遅かれ早かれそれに気づくことだろう。
トルーマンは堅い表情で言った。
「たしかに、きみの言うとおりだ、ハップ・アーノルド。だか...
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CENTER:[[登場人物表(第2部開始時点)]] [[間章(後編)]] [[小...
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